『遺伝子組み換え戦争”戦略作物”巡る戦い 欧VS米 Transgenic Wars』

※本稿は、3月22日公開の予定でしたが、TPPの緊急性に鑑みて、2018年3月6日に公開いたしました。

 

2015年11月25日(木)にNHKBSで放映された番組を見ました。
シリーズ巨大グローバル企業の舞台裏にせまる』の中の『遺伝子組み換え戦争”戦略作物”巡る戦い 欧VS米 Transgenic Wars』です。制作は、Premieres Lignes Television(フランス2014年)

ドキュメンタリー番組は通常は何の解説もなく、本編をそのまま放送していました。しかし、今回は、本編の放送に先立ってNHK解説委員の合瀬宏毅さんが、次のような解説をしてくれました。

「EUでは、科学的に安全性は確認してはいるものの、加盟各国に対して栽培するかどうかの選択権を与えることを2015年3月に決定しました。その結果、フランスやイタリヤ、ドイツなど域内の三分の二の国が遺伝子組み換え種子のいつくつかを、国内で栽培することを禁止したのです。これから放送する番組は、フランスのプロダクションが制作したものて、ヨーロッパの価値観が色濃くででいます。その背景には、戦略物資である種子を巡る熾烈な戦いがアメリカとヨーロッパの間であることが分かります。TPPが進展し貿易ルールが変わる日本にも関わりのあるテーマです」。

番組では、冒頭にデンマークの畜産農家が最初に紹介されました。その農家では、豚を飼育しているのですが、「遺伝子組み換えの飼料を与えたところ、数年前から子豚が激しい下痢をして多数死亡している」とオーナーが語ります。
そこで、「遺伝子組み換え飼料をやめてみたらどうなるのか試してみたら、一頭も下痢をする豚がいなくなった。それまでは、下痢を止めるために、抗生物質を毎日100mリットルを投与していたが、それでも3割の豚が死んでいた。私は、アルゼンチンのある地域で栽培されているエサが原因なのではないか、と考えていた。なぜなら、同業者もそこの飼料を使っていて、同じ被害にあっていたからです。」

ナレーターが、語ります。「輸入された飼料が原因であるとすれば、現在行われている検査では、見つからない問題があるということでしょうか?」

取材班はその飼料の輸出元であるアルゼンチンを訪れました。アルゼンチン北部の村チャコ州のアビア・テライです。遺伝子組み換えの農場に囲まれた村では、子供が原因不明の皮膚病や原因不明の変性疾患に襲われた少女がいました。医師は、農薬が症状を悪化させた可能性があると指摘したそうです。

その村の住民は、アメリカのモンサント社の農薬(除草剤)「ラウンドアップ」を毒と呼んでいました。その農薬は、居住区から1.5Km以内では散布が禁止されています。
遺伝子組み換え大豆の畑は、耕す必要も雑草を抜く必要もありません。しかし、雑草が伸びすぎてしまうと、雑草に養分を持っていかれるので、除草剤を散布します。すると、雑草だけが枯れて、大豆は枯れません。大豆には、除草剤に対する耐性を持つよう遺伝子操作されているからです。

大豆の生産農家では、自分が栽培した大豆は輸出専用として、自分では食さない。自分の鶏には、エサととして使っていないそうです。なぜか?「その大豆をエサにしたところ、肉が臭くて食べられなくなったから」と語っていました。

違法な農薬散布の結果、妊娠中に農薬を吸い込んでしまった妊婦からうまれた子供に障害児が多く生まれるようになったため、医師300名がネットワークを作って、この事態に警鐘を鳴らそうとしています。
支援センターの責任者は、「原因を特定するのは、困難である」
そもそも、遺伝子組み換えは、農薬を減らすことが謳い文句でした。だから、遺伝子組み換え作物には、グリゴサートと呼ばれる農薬だけを使えば良いとメーカーが言っているところ、農家が独自に他の薬剤を混ぜていたのです。ヨーロッパでは使用が禁じられているアトラジンと2,4D(軍用の枯れ葉剤;ベトナム戦争時に使用)でした。遺伝子組み換え作物は、農薬を減らすはずところが結果逆の対応が取られていた。
それは、除草剤に耐性をもつ雑草が現れたからです。そこで、複数の除草剤を混ぜて散布しているのです。

ここで、重要な問題が指摘されました。発がん性の有無は、除草剤単体でしかテストされておらず、混ぜあわせた場合の発がん性は、調べていなかったのです。
アルゼンチンの農民たちは、農業研究者を頼りにし、農業研究者たちはモンサント社を信頼してきました。モンサント社は、TVの質問には、答えません。保健省も何の調査もしていません。
ロザリオ国立大学が、毎年独自の調査を実施しています。学生1700人が、住民9万人に聞き取り調査をしました。その結果、村ではがんの発症率が急増(1年で40%増)していることが判明しました。
「がんが急増している村には、共通点があります。①どの村も遺伝子組み換え食物の畑に囲まれている点。②村のすぐ近くで、農薬が散布されている点です。」と学生は語りました。

アルゼンチンの経済は、もはや遺伝子組み換え作物抜きには成り立たたないでしょう。
大統領も「モンサント社のビジネスを歓迎します」と宣言しています。1996年から2011年までで、650億ドル稼ぎました。
wikurikksu🔴によって、アルゼンチンのアメリカ大使館と本国とのメールが公開されましたが、それによるとアメリカ大使が直に、モンサント社の営業マンとして活動していることが、明らかになりました。

アメリカの国務省の学生相手の講演ビデオで。
”Can Agriculture Save the Planet …Before it Destroys it?” と題する講演ビデオ。「なぜ、国務省が農業について講演するのか?に対して、アメリカにとって、食料は兵器やエネルギーと同じ戦略物資なのです。」と説明しています。

ブリュッセルでは、ヨーロッパバイオ協会が設立され、Dr.Patrick Moore(元グリーンピース)がゴールデンライス(プロテインを加えた稲)を展開。ビタミンAを含み途上国の子供を飢餓から救います。
パトリック・ムーアは、「ゴールデンライスが、ゲイツ財団の強力で研究は進展したが、商業利用の許可が降りない。商業利用の馬鹿げた基準にあわせるのにあと2年から3年必要なのです。」と語った。
また、アルゼンチンで「がん」が増加している点については、「データの捏造であり、グリゴザートが、ガンを引き起こすことはあり得ない。1リット飲んでも安全です。」とインタビュアーに語った。

「バイオ協会は、ヨーロッパの基準は厳しすぎると言います。しかし、その基準も新たな貿易協定TTIP(TAFTA)環大西洋の貿易パートナーシップで、アメリカの基準に合せられて崩壊してしまうかも知れません。
TTIPでも最終的には、仲裁人が判断を下す仕組みだが、仲裁人の中にはモンサント社の顧問弁護士やロビイストが含まれており、企業が自由に仲裁人を選ぶ仕組みである。
TTIPは国内法より上位に位置づけられており、国内の基準は取り払われてしまうだろう。
ヨーロッパでも、交渉は非公開で行われている。この15年、バイオ業界は消費者の反対をよそに静かに勝利を続けている。今のところ。」とナレーターが結んだ。

前回のNHK視点・論点を見た時と全く同じ感想を抱いた。「このままでは、アメリカの1%の利益のために、全人類が「がん」に侵されてしまう危険性がある」と。

 

三井ヘルスケアみと